2024年7月17日例会(終了)
患者は63歳男性(職業:経営者)剣道愛好家。
抄録にもある通り、上顎無歯顎(左上357インプラントオーバーデンチャー)。
下顎はブリッジを含めた左右則第二大臼歯までの天然歯列。
患者は高齢にも関わらず、剣道の練習に励み、その際に上顎義歯が外れるため、前医にてIOD作成のためにインプラントを10本以上植立するも、そのほとんどがロストし、初診時には
左上3本を残していたが、そのインプラントも不安定な様相であった。
同症例を治療開始するにあたり、使用中の金属床義歯を咬合器にリマウントしたところ、右上の咬合接触が強く、左上前歯から大臼歯は咬合接触がない状態であった。
均等な接触を獲得するため、右上接触部分を削除し、左右のバランスを整えた上で患者口腔内に戻し、十分な吸着を備え、なおかつ粘膜の発赤・傷を改善する目的で、ティッシュコンディショナーを粘膜面(特に辺縁部、後縁)に十二分に塗布して患者の反応を見たところ、吸着に満足を得られたため、この義歯の粘膜面を新製義歯に活かすこととして作成を開始した。
作成にあたり、動揺する下顎前歯部の前方突出により上顎総義歯が不安定になることが予想されたため、左下1を抜歯し、3~3を抜髄の上、舌側へと歯軸を変更したZrブリッジを装着した。
粘膜調整後の旧義歯を元に作成した上顎総義歯は前歯部は接触させず臼歯部のみのフルバランス咬合を付与するも、剣道練習時の疼痛と脱離(術前ほどではない)を訴えるため、①食事用の義歯と②剣道用の義歯を1つずつ作成した。
①は前歯の接触は全て回避の上で、側方運動時の咬合接触はフルバランスで調整を終えた。
②は前歯の接触は全て回避の上で、側方運動時の咬合接触は無調整とし、吸着を良くするため、床後縁をさらに後方に伸ばした。
結果として、①は若干吸着に劣るものの、疼痛はなく、粘膜の発赤は消失した。②の使用時の脱離もなく、現在のところ患者満足は得られている。
質疑応答では、超ブラキサータイプの患者にインプラントを用いる際のインプラント選択はボーンレベルが推奨される点。旧義歯の改変は後戻りできない場合に患者トラブルとなるため、パイロットデンチャー作成をすべきこと。付与する咬合接触はリンガライズドオクルージョンがよかったのでは?etc. の指摘があった。
参加者は15名であった。
次回例会は8月21日八田知之先生の担当予定です。